project
story

 

トイレマジックリン こすらずスッキリ泡パック

挑戦の先に見えた
“トイレ掃除の新しい価値”
INTRODUCTION

膝をかがめて、便器をブラシで力を込めて磨く……。トイレ掃除ではおなじみの光景ですが、「できればやりたくない」と感じる人が多いのは事実でしょう。そんなネガティブなトイレ掃除のイメージを一変させたのが「トイレマジックリン こすらずスッキリ泡パック」です。便器にスプレーし泡で満たし、ほったらかして流すだけで掃除が完了するという圧倒的な手軽さで、2023年10月の発売以降、多くの生活者の厚い支持を受けています。
革命的ともいえるこの製品を、なぜ花王は生み出せたのでしょうか。大ヒットの裏に隠された試行錯誤の軌跡を、担当者である三人に聞きました。

MEMBER
研究開発担当

研究開発担当ハウスホールド研究所

2013年 新卒入社

商品開発担当

商品開発担当ホームケア商品開発部(開発マネジャー)

2018年 キャリア入社

マーケティング担当

マーケティング担当ホームケア事業部(シニアマーケター)

2014年 新卒入社

01製品開発のきっかけ

敬遠されがちな
トイレ掃除を前向きに

製品開発のきっかけ

 製品の開発について、検討を開始したのは2020年の後半のことです。当時はコロナ禍の真っただ中で、生活者は多くの時間を自宅で過ごすことに。その分だけ掃除の回数が増えてしまい、特にトイレ掃除の増加を嫌がる声がたくさん寄せられていました。「こうした状況を花王製品で救えないか」と考えたことがこの製品の開発のきっかけでした。

 「新しいトイレ用洗剤で、敬遠しがちなトイレ掃除をポジティブなものにできないだろうか」と相談されて、正直ワクワクしました。そんな製品、過去になかったですから。研究開発担当者としての腕が鳴る、やりがいに満ちた挑戦になると感じました。

 前のめりに話に耳を傾ける研究開発担当 さんの目の輝きは今でも忘れられません(笑)。
実は当時、トイレ用洗剤の市場は成熟しており、出荷数は頭打ち。新たな製品を投入して、市場を活性化するべきだと考えていました。また、嫌われている家事の筆頭であるトイレ掃除を「嫌われない、もっと前向きにできる家事にしたい」との思いも抱いていました。話し合ううちに、「以前からの思いを実現できる」と、私も猛然とやる気が湧いてきました。

インタビュー風景

02生活者の声から見えたゴール

求められるのは
高い「満足感」でした

生活者の声から見えたゴール

 生活者の声をさらに調査すると、ブラシで便器を磨く行為自体を面倒に感じる生活者が多いことが判明しました。そこで「ブラシを使わないで済む、ラクなトイレ用洗剤」という、一つの方向性が見えてきました。

 でも、それだけでは物足りません。さらなる開発の糸口を見つけたいと考えて、担当者で生活者のお宅を訪問調査させていただく機会も設けました。

 そこで実際のトイレ掃除の様子を観察していると、どのお宅も便器はあまり汚れているようには見えないのに、力を込めてブラシで磨いていました。

 理由を伺うと、「そうしないと、洗っている実感がない」と口々に仰っていました。この「実感」という言葉を聞き、はっとしました。生活者はトイレをきれいにするだけではなく、「きれいにした」という満足感を得たいと思っていることに気づいたのです。ブラシを使わないだけでなく、高い満足感こそが新製品には求められている。そう直感しました。

 その満足感を与えるためにどうするかを考えるなかで浮かんだのが、「便器を覆うくらい泡をたくさん出せば、見た目からも大きな満足感が得られるでは?」というひらめきでした。
花王では長年にわたって泡の設計技術を研究しており、私自身も泡を使用した製品の開発をいくつも担当してきました。製品の洗浄力を泡で高める研究も行っているため、ブラシを使わなくても良いくらいの強い洗浄力もまた、泡で実現できると考えました。

インタビュー風景

03前例のない研究開発

これまでの
知見の蓄積が、
開発の突破口に

前例のない研究開発

 特に大変だったのが、この製品にもっともふさわしい泡を決めることです。
便器の内側に付着した汚れを泡で落とすには、泡自体に垂れ落ちない持続力が求められます。加えて、見た目の満足感を出すためにはこんもりとした、体積の大きい泡であることも不可欠です。
しかし、体積と持続力はトレードオフの関係にあり、体積を大きくすればするほど、持続力は低下してしまいます。

 しかも、泡は洗剤液だけでできるものではないですからね。
容器内の洗剤液をトリガーで押し出すことで、泡として噴射されます。トリガーとの組み合わせも非常に重要です。

 そうなんです。強い洗浄力を担保しつつ、泡の体積の大きさと持続力を両立させた洗剤液を作るために、どの基剤をどの比率で、どのようなトリガーと組み合わせるのが最良なのか。開発は困難を極めました。
しかし、私が以前に研究開発を担当した製品で検討していた成分をたまたま用いたところ、目標数値を越える持続力の泡を作ることができました。入社以降、一貫して研究開発に携わるなかで蓄積してきた知見を活かすことができました。

 最終決定までに、研究開発担当 さんには膨大な数を試作してもらいました。数にすると、どのくらいですか。

 2000パターン以上にものぼりますね(笑)。
商品開発担当 さんと一緒に和歌山の研究所のトイレでたくさんのサンプルを並べて、一日中試行錯誤したこともありました。
トリガーを制作した包装技術研究所も大変だったと思います。

インタビュー風景

04製品の価値を伝えるために

花王の各部門が
全力で力を注いだ
総力戦の製品開発

製品の価値を伝えるために

 中身の洗剤液以外の面でも、隅々までこだわっていて、まず重視したのが香りです。
一般的にトイレ用洗剤の香りといえば、爽快なミント系が主流ですが、この製品ではルームフレグランスのような今までのトイレ洗剤にはない、掃除していることを感じさせない上質な香りにしたいと考えました。最終決定までに、感覚科学研究所には数百ものパターンを試作してもらいました。容器も既存製品とは異なるスリムなボトル状で、さらに落ち着いた色味を用いることで、インテリアとして馴染むように配慮しました。

 ネーミングもこだわり抜きました。ブラシを使わず汚れを落とすことと、泡で便器を覆いつくすことの2つの特長をストレートでキャッチ―な言葉に落とし込むだけでなく、トイレ掃除を「やりたい」と思えるような、楽しさを喚起する要素も加えました。
「こすらずスッキリ泡パック」はベストなネーミングだと自負しています。加えて宣伝などのコミュニケーション活動でも、製品の特長と楽しさの両方を即座に理解してもらうことを重視し、イメージ広告では便器中を泡で満たした、人目を惹きつけるビジュアルを制作しました。

 インターネットを検索すると、マーケティング担当 さんが泡のついたお盆を裏返しにして、頭上に掲げている画像が出てきます。あれも宣伝の一環ですよね。

 あれは、小売・流通業者に新製品をプレゼンする際に、強烈な印象を残せるように考えついたパフォーマンスです。販売会社が商談をする際にもこのパフォーマンスをお願いしており、実際に取引店舗の拡大につながった例も多かったと聞いています。製品の斬新さと面白さが一目でわかることが奏功したのだと思います。

インタビュー風景

05製品発売後の反響

新製品がもたらした
トイレ掃除の
変化とは

製品発売後の反響

 ありがたいことに、当初から想定をはるかに上回る売れ行きを記録し、累計出荷数は2025年10月までで2500万本を突破しました。
売れ行きだけでなく、トイレ掃除を嫌がる生活者の心にきちんと刺さり、また「前向きにトイレ掃除に取り組める」という新しい価値を提供できた点で、プロジェクトは大成功だったと考えています。

 今までトイレ掃除をしなかった男性や子どもたちも、進んで動いてくれるようになったという声もあり、女性のみが担いがちだったトイレ掃除のあり方に根源的な変化をもたらしつつあることを知り、製品の持つポテンシャルの大きさを実感しています。

 一方で、リニューアルも随時実施しています。泡のこんもり感と持続力をさらに高めたほか、心地よさにこだわった新しい香りを提案したりと、より多くの生活者に喜んでいただけるトイレ用洗剤にするべく、現在進行形で努力を重ねています。

インタビュー風景

06開発を振り返って

すべての
「よきモノづくり」
生活者のために

開発を振り返って

 この製品の開発を通じて、改めて「よきモノづくりとは何か」を見つめ直すことができたと思っています。私にとってそれは、生活者起点に徹するということです。生活者の生活を豊かにしたいという思いの下で、生活者のニーズを考え抜き、製品化することで、生活者の行動や価値観、考え方までも変えることができると、この製品を通じて再認識できました。今後も生活者起点にこだわり続けながら、開発に尽力していきたいです。

 どの製品の市場も競争が激化しており、製品開発のスパンも速くなっています。そうした状況だからこそ、私は「競争しない製品づくり」にこわだっていきたいです。少しの機能や価格の差を武器にしない、オンリーワンの着眼点と技術を備えた製品を開発することで、生活者の生活を長きにわたって支えていくこと。それは、常に生活者に向き合い続けている花王だからこそできる「よきモノづくり」だと思います。

 生活者の「こんな製品がほしい」という想像を少しだけ超えた製品を世に出していきたいと思っています。生活者を置いていくのではなく、あくまで生活者の歩幅に合わせながら、でも半歩先を行く「よきモノづくり」を行い、「こんな製品は今までなかった」と良い意味で裏切ることで、生活者の生活の質を徐々に高めていくことができたら、こんなに嬉しいことはないですね。

インタビュー風景

※記事の内容は取材時点のものです。